とは考

「・・・とは」「・・・人とは」を思索

『年収100万円の豊かな節約生活術』山崎寿人

年収100万円の豊かな節約生活術 (文春文庫)年収100万円の豊かな節約生活術 (文春文庫)
(2014/05/09)
山崎 寿人

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著者は、東大出身、大手企業を30歳で退職し、定職に就くことなく20年以上、わずかな収入で、愉快に暮らしている50代独身の方です。

この本は単なる節約の本ではありません。豊かな人生を問い続けた著者の思想実践書です。この楽しみを理解できる人は、人生を達観できた人かもしれません。参考になった点が多々ありました。それらの一部をまとめてみました。



・求めているのは、日々の生活を人生もろとも楽しむこと。あくまでも幸せが先、節約は二の次。だから、よくある節約術のように、「何円倹約できたか」に一喜一憂しない

・年収100万円や生活費月3万円(変動費部分)とは、生きることを楽しむために「これくらいあれば、大して支障はない」という金額。あるに越したことはないが、なければないで構わない。この予算内で、いかに豊かな生活が送れるかを楽しんでいる

・豊かな貧乏生活術の目標とする柱は二本。「いかに金をかけずに、生活の質を上げていくか」の追求。「いかに安い食材で、豊かな食生活を送るか」の追求。そのため、脳みそを使う

金のかからない楽しみを探すことが節約法の一つなら、これこそ最強の節約術。頭を使うことにお金はかからない

食費は月15000円(1日3食500円)が目安。もっと節約できるが、500円は、安い食材で、贅沢気分を味わえ、栄養バランスを考えた料理を作る額。朝食40円前後、昼食35円。夕食は主食40~45円、サラダ30円、小鉢30円~75円、おかず250円~300円

・月初めに、銀行から現金2万円を引き出し、財布に入れる。現金払いの生活費が1万5000円、予備費が5000円。これで、月の食費と日用品、雑貨、交際費、遊興費、医療費、衣料費、交通費をすべて賄うのが基本。光熱費とスクーターのガソリン代は銀行引き落とし

・日々のやりくりの主役は、食材の買い出し。徒歩10分圏(スーパー3店、ディスカウントショップ1店)スクーター10分圏(業務用スーパー3店、激安スーパー3店、輸入エスニック食材店4店、ショッピングモール5店、市場1か所)の巡り歩きと特売食材の物色

・割高の商品を買う人を見るたびに、「この人たちは、その割高の分だけ、タダ働きをしていると考えないのかな」と思う。無駄遣いは無駄働きと一緒

・世の節約術とは違う「貧乏生活術」の目指すところは、「1円でも安く」ではない。あくまで、自分の少ない収入の範囲で、豊かな気分になれるような生活を送ることが目的

・こういう生活を長く続けていくためには、健康に人一倍気をつけなくてはいけない。心と体の健康が生活を豊かに楽しむ基本。そして、医療費と歯科医療費のような不意の出費を避けるため

・『残すもの』「パソコン」(外界との接触が希薄になり、暮らしの孤立化を防げる)、「冷蔵庫」(料理が趣味)、「スクーター」(電車賃の節約、格安食材購入のため)

・『削るもの』「車」「電車」(スクーターで代用)、「携帯電話」(ほとんど家に居るため)、「コンビニ」(激安スーパーや深夜営業ディスカウント店で十分)、「タバコ」「酒・ドリンク」(健康と倹約を考えて)、「外食」「新聞」(節約のため)、「床屋」(電動ヘアカッターで代用)

お金なんて要らないと言えば、やせ我慢と取られ、成功に興味がないと言えば、負け犬の遠吠えと思われる世の中

・この生活を続けているのは、ここに自由な時間が無尽蔵にあるから。言い換えれば、何もしないでよいことを、何より大切に生きているということ

・世の中には、高揚感を幸福と錯覚している「興奮中毒患者」が多い。毎日のスケジュールが予定びっしりで、あくせく動き回っているのは、心の空洞をそのままにして、仕事や遊びで埋めようとしているようなもの。鎮痛剤で痛みを抑えているだけのこと

・何に贅沢を感じるかは、人によって違うのが当たり前。何に豊かさを感じるかもそう。何も自分の幸福や健康をないがしろにしてまで、社会の常識や価値観をそのまま受け入れる必要はない

社会の常識や価値観なんて利用するもので、縛られたり、踊らされるものではない。もちろん、社会の常識や価値観は尊重する。批判もしない。だが、自分がそれに従うかどうかは自分で決める。そして、そのリスクは甘んじて受け止めるということ



著者の生活こそが、未来志向の「贅沢な生活」なのかもしれません。世間の常識に惑わされず、企業の宣伝を無視し、すべて自分の頭で考えて、自分に合った生活を楽しむことができれば、こんなに幸せなことはありません。

世の中の全員が、こういう生活を求めれば、資本主義社会は崩壊します。とりあえず、みんなが資本主義社会に巻き込まれて、あくせく働くのを横目に、こういう生活を楽しむのが心地いいのではないでしょうか。

[ 2014/08/18 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(1)

『絶対貧困・世界リアル貧困学講義』石井光太

絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)
(2011/06/26)
石井 光太

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売春、麻薬や銃の売買、殺人などの犯罪の温床であるスラム街は危険がいっぱいです。著者は、世界各国のスラム街14か所に足を運び取材した、根性のあるジャーナリストです。

世界のスラム街を本当に取材した人物は、著者が日本でただ一人だと思います。その貴重な記録から、貧困とは何かを考えさせられた点をいくつか選び、まとめてみました。



・貧しい人々は、次のような追い出されない場所にバラックを建てようとする。「危険な場所」(川べり、土手、鉄道沿い)、「不潔な場所」(ゴミ集積所、下水の溢れる場所)、「目立たない場所」(人気のない街角、隔離された居住区)

・スラムを分類すると、「同じ身分や職業の者が集まっているスラム」と「宗教や民族や出身地別に成り立つスラム」がある

・スラムが大きくなると、隣人相手に商売する人が出てくる。真っ先に作られるのが、食べ物を売る「八百屋」「肉屋」と「雑貨屋」。その次に現れるのが「酒屋」「賭博場」。店が一通りできると、ちょっと成功した人が、新しく住みついた貧困者を遣った会社を起こす

・スラムに会社ができると、やがて売春窟が作られるのが常。きれいとは言い難い女性や小太りの中年女性たちが働き始める。こうしてスラムがさらに大きくなると、完全な「街」となり、人口増加に比例して、店や会社の数が増え、競争原理で、サービスが向上する

・海外では、階級によって食生活が全く違う。途上国はそれが顕著。セレブ、ビジネスマン、庶民、スラムの住人ごとの食べ物や調理法がある。世界のスラム食に共通していることは、「火や油を使った料理」。ばい菌を殺し、保存期間を延ばせるから

・スラムの「貧困フード」には、魚の頭、鼠や昆虫、骨を油で揚げたもの等があるが、その中で、世界中の人々に受け入れられてグローバルフードになったのが、フライドチキン

・夫婦の秘事は、子供に囲まれながら、声を殺して、前戯などなく、即挿入で敢行する。その理由は、「体を洗っていないので汚いから」「早く射精して家族を起こさないため」

・スラム街の女性たちは、恋人をつくったり、結婚したりする度に子供をはらむため、腹違いの義理兄弟がわんさかできる。そのため、血のつながりは重視せず、どこかで血が繋がっていればみんな兄弟といった感覚を持っている

・スラムが巨大化して街になると、生まれる代表的な「表の仕事」が次の三つ。「人力車、自転車タクシーの運転手」「廃品回収業」「日雇いの肉体労働者、家政婦」

・スラムの片隅で行われる「闇の仕事」(犯罪行為)の代表が「麻薬売買」「武器売買」「臓器売買」「人身売買」。一部の住人が、様々な成り行きから、悪事に手を染めてしまう

・路上生活の天敵は、「季節」と「警察」。寒い地域には「マンホールハウス」(冬は暖かく、雨や雪をしのげる)がある。蚊の多い地域の人は、ミイラのようにボロ布を巻いて寝る

・路上生活者は、家族や仲間が亡くなったら、遺体を道路に置いて、線香を立て、通行人から埋葬費用を募る。そして、木の薪は高いので、古タイヤを使って火葬する

・路上には「物売り」と「物乞い」という二つの職業がある。物売りには、新聞売り、煙草売り、お菓子売り、宝くじ売り、ティッシュ売り、花売りなどがある。物乞いは、芸人型物乞い、ストリートチルドレン、アピール型物乞いに分けられる

・インドの「障害者や病人の物乞いランク」は、上から「ハンセン病」「象皮病」「四肢切断」「全盲、知的障害」「片手、片足、片目の障害」「火傷、皮膚病などの軽い障害」。「健常者の物乞いランク」は、上から「赤子」「老人」「女性+赤子」「女性」「青年」「成人男性」

ストリートチルドレンに男児が多いのは、「親戚は大人しい女児しか預からない」「女児は少女売春婦や家政婦に雇われる」「女児が犯罪から身を守るために男装している」から

・ストリートチルドレンが、幼いうちに多くが死亡する理由は、「薬物中毒死」「酩酊時の事故死」「感染症死」「栄養失調」。まっとうな道に進もうとしても、「シンナーなどの薬物依存症」「愛情欠如によるコミュニケーション障害」「トラウマによる社会不適合」が阻む

売春婦推計人口は、中国が2000万人(女性の30人に1人)、インドが1000万人(女性の50人に1人)。GDPにおける売春の占める割合は、韓国が5%、中国が6%

・一般の売春宿では、男性客が1000円支払ったら、その3割~5割(300~500円)が売春宿側の儲け。その代わり、売春宿は売春婦に3食とベッドを提供し、トラブル処理や警察への賄賂なども負担する



目を背けたくなる事実がいっぱい記載されている書でした。しかし、これが貧困の現実です。きれい事だけでは世の中を渡っていけません。

数年前、貿易会社を経営している人から「貧しい国を訪問するときだけ、まだまだ甘い息子を同伴させている」という話を聞きました。この話のように、厳しい現実を知らない人には、貧しい国はいい薬になるのかもしれません。


[ 2014/08/04 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『年収1000万円の貧乏人、年収300万円のお金持ち』伊藤邦生

年収1000万円の貧乏人 年収300万円のお金持ち年収1000万円の貧乏人 年収300万円のお金持ち
(2013/02/09)
伊藤 邦生

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著者の「お金」の考え方が自分と似ています。著者が、本書で紹介する書もほとんど読んだものばかりです。

タイトルは、軽薄に感じますが、内容は、結構深いものがあります。その一部をまとめてみました。



・現代社会は、多くの企業が練りに練った販売戦略を行い、消費活動を喚起させようとしている社会。その中で生活するということは、強い意志がないとお金を使ってしまうということ

・私たちは、必要最低限の生活費を除くと、「公務員」と「建設会社」と「銀行員・保険マン」を食べさせるために、一生懸命働いていると言える。借金をして、マイホームを買うと、一生、建設会社や銀行・保険会社のために働く人生になってしまう

・「勉強した」からには、資格や学歴などの明確な結果が欲しい。「努力した」からには、明確な形で「報われたい」。だから、勉強、資格、学歴などのスキルアップに必死になる

・投資家は多くの案件を精査し、その中に一つ二ついい案件があればいい、と考える。投資は、損する可能性があることを覚悟した上で実行するもの

・サラリーマンは、リスクをとることを恐れる人種。「リスクをとる」というのは、何かを失うことを覚悟して、それ以上のリターンを追求する行為

・人口が増えれば株価が上がるというのは、単純な真実。株価の上下は、40代半ばの人口の数に比例するのも事実

・デフレ経済では、どの業界も「二極化」の現象が起きる。日本株は、勝ち組の企業を選べばいい

・68%のファンドマネジャーが「市場平均」に負けている。つまり、プロのファンドマネジャーに運用を任せる投資ファンドは買わないほうがいいということ。さらに言えば、金融機関は、投資で損して、手数料で儲けているということ

・不動産はとても参加しにくいマーケットだが、不動産投資は、完全に素人のマーケット

富とは、持っているお金の額のことではない。お金をすべて失ったときに残っているもののこと。富とは、あなたの中にあるもの

・投資ステージの特徴は、「1.アリ」貯金がなく、その日暮らし「2.カモ」貯金はするが、増えない「3.カメ」全額を銀行に貯金「4.ヒヨコ」投資を少し学び始める「5.スワン」優良案件を投資判断できる「6.ゴールドスワン」よい投資案件が流れ込む

・資本主義社会はアリの社会と似ている。少数の女王アリのために働き続ける多くのアリと、一握りの資産家のために働き続けるサラリーマンは同じ

住宅ローンを組んだサラリーマンは、30年後に価値がなくなるもののために、30年間働き続けるということ

アリは資産家のために一生働き続ける。カメは国のために一生働き続ける。投資のスキルがないと、アリとカメとして生きていくしかない

投資力がないのに、資産だけ持っていると、簡単にカモにされてしまう

・資産を守るためには、分散投資は有効だが、資産を増やす場合は、むしろ集中投資をしなければいけない

・投資で勝ち続けるためには、感情を克服しないといけない。そして、「優位性」を核とした上で、「規律」「忍耐」「リスク管理能力」「覚悟」の4つの資質が備わっていないと、長期的に資産を築き上げるのは難しい

・ノウハウや「優位性」をもって、アプローチや戦略を築き上げることで、投資もギャンブルではなく、仕事になる

・時間のない金持ちの主要な収入は「給料」。時間のある金持ちの主要な収入は「不労所得」。不労所得のある金持ちは、優雅な暮らしをしている。あくせく働くことはない。いくらお金があっても、人生の時間を買うことはできない。マネーよりタイムのほうが、断然重要



本当に豊かに暮らすには、どうしたらいいのかを真剣に考えた人であれば、著者の意見に同意すると思います。

著者に同意する人が圧倒的多数になったとき、日本は豊かな社会になっているのではないでしょうか。


[ 2014/07/14 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『資本主義から市民主義へ』岩井克人

資本主義から市民主義へ (ちくま学芸文庫)資本主義から市民主義へ (ちくま学芸文庫)
(2014/04/09)
岩井 克人、三浦 雅士 他

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東大名誉教授である著者の「貨幣論」(貨幣は貨幣だから貨幣である)は、貨幣の本質を真に言い当てたものです。この実体のない「貨幣」の獲得に奔走する社会に、私たちは今生きています。

本書には、この資本主義社会を「よりよく生きる」ためのヒントがいっぱい詰まっています。それらをまとめてみました。



・人は手に持っている貨幣を今使うべきか、もう少し後に使うべきか、常に決断に迫られている。何も債券や株式、さらには先物やスワップやオプションの登場を待つことなく、人類は貨幣を使い始めたときから、投機という現象に直面せざるを得なかった

・人間は投機するサル。投機は未来を実体化する。おそらく、それこそが時間の起源であり、欲望が時間の起源ということ

・紙幣のほうが貨幣の本質を具現している本来的な貨幣。貨幣とは、最初から本物の代理でしかなく、すべての貨幣の価値はそこから出発する

・不換紙幣は近代の錬金術と言われるが、実は錬金術こそ、貨幣を模倣しようとした。鉛や錫といった粗悪な金属を金や銀に換えるのは、貨幣経済がすでに成立してからの試みであった

・産業資本主義以前の富は、自然発生的なもの。したがって、富は掠奪や戦争で獲得していた。その掠奪品は、必ずしも自分の欲しいものとは限らない。そこで、掠奪品を自分が好きなものと替えてくれる人間が必要になり、掠奪品を売買する商人が登場する

・農村における共同体的賃金が都会の工場労働者の賃金を抑えてくれたおかげで、資本家は自動的に利潤を得ることができた。一つの国民国家の中に、市場的な部分と非市場的な部分が共存していたことが、産業資本主義を可能にした

・「世界経済は<中心><半周縁><周縁>というメカニズムによって形成されている」(ウォーラーステイン)

・日本では1970年代に入ると、農村の産業予備軍が枯渇し、国民経済の中の二重構造が解消し始めた

・貨幣を持つことは、もともと未来に向けた投機にほかならない

・貨幣を持つのは遊戯。食べ物は食べないと腐ってしまうが、貨幣は今の使用価値に通じなくてもいいので、遊びそのもの

・貨幣発行者の大儲けを経済学ではシニュレッジ(王様利得)と呼ぶ。かつては貨幣の発行権は君主の特権だったから。アメリカは今、王の特権を享受している

基軸通貨国であるアメリカは、基軸通貨国としての世界経済全体の立場に立った規律が求められている。例えば、アメリカが不況であっても、世界がインフレになれば、アメリカはドルの供給を減らして、デフレ政策をとらなければならに

・日本の会社は「会社共同体」でユニークと言われるが、アメリカは「株主主権」、ドイツは「労使参加」、イタリアは「家族支配」でユニーク。そもそも会社は融通無碍

・資本主義は差異を食って生きている。逆に言えば、差異を見つけて均していく、世界を均一化していくことで生きているということ

・人間とは社会的動物だが、それは、「言語」「」「貨幣」を媒介として、お互いを抽象的な意味での人間として認め合うことによって社会を形成する動物ということ

・貨幣はすべてのモノを手に入れる可能性を与えてくれるということから、人間はモノそのものを欲望するよりも、モノを手に入れる可能性を欲望するようになった

貨幣が貨幣として価値を持つのは、すべての人に貨幣が受け入れられているから。法が法として人々の義務と権利を確定するのは、すべての人に法が受け入れられているから。言語が言語として意味を伝えるのは、すべての人に言語として受け入れられているから

・一万円札を欲するのは、他の人も一万円札を欲しているから欲しているだけということ

・資本主義の本当のクライシスとは、貨幣が貨幣でなくなってしまう貨幣経済解体の事態。これに対して、モノを買う人がいなくなり、モノが売れなくなる恐慌は、本当のクライシスではない。なぜなら、それは貨幣の存在を支える社会の永続を人々が疑っていないから



貨幣という欲望(色欲)の権化が、実体は何もない(空洞)というのが印象的な点でした。それは。まるで「色即是空」の世界です。

「ない」ものをみんなが「ある」と信じるから、「ある」ようになっている。そういうものは、貨幣以外でも他にたくさんあります。社会とは、幻想の上に成り立っているということを認識できる書でした。


[ 2014/07/07 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『男性不況・男の職場崩壊が日本を変える』永濱利廣

男性不況――「男の職場崩壊」が日本を変える男性不況――「男の職場崩壊」が日本を変える
(2012/10/26)
永濱 利廣

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日本は、女性の社会進出が遅れていると言われているが、実は、ジワリジワリ進行し、男の職場を侵食している、ということが記されている書です。

10年前のデータと比較すれば、その傾向は一目瞭然で、今後も、男性が苦境に陥りそうに思います。

どういう対策をとれば、この苦境から逃れることができるのか?男の立場としては関心のあるところです。その一部をまとめてみました。



・男性不況とは、「男性向きの仕事が減り、女性向きの仕事が増えた結果、男性の価値が低下した」状況

・製造業や建設業などの男性向きの雇用が減り、医療・福祉などの女性向きの雇用が増える。それと並行して、かつては男性向きと考えられていたホワイトカラーの門戸が女性にも開かれる。その結果、「女性高・男性安」になった状況を男性側から見たのが「男性不況」

・2002年当時の男性就業者の4割近くが、製造業と建設業に集中していたので、製造業(205万人減)と建設業(145万人減)の就業者減が、男性の就業者が減った最大要因

・生産年齢人口比率は建設投資と相関するので、日本の建設投資も1990年を境に減り続けている

病院や介護施設で働く人の数が大幅に増えている。その数は、2002年から2011年の9年間で178万人増と、他業種とはケタが違う

・男性はピーク時の577万円から直近の500万円へ(13%減)、金額にして77万円も給与が減ってしまったのに対し、女性は280万円から263万円へ(5%減)と、わずか17万円の減少で済んでいる

・男性の給与が下がった理由は、非正規雇用の増加だけではなく、正規雇用者の賃金の低下にある。そして、もう一つ、女性の正規雇用者の給与が上がったこと

・2020年までに、女性の雇用が134万人増加するのに対し、男性の雇用は55万人減少すると予想されている

・男女間給与格差の縮小にこそ、家計の所得格差拡大の原因がある。女性の賃金が男性の賃金に近づけば近づくほど、お金持ちの家庭とそうでない家庭の所得格差が大きくなっている

・自然に任せていては、男女が収入階層の壁を超えて、相手を選ぶのは期待薄で、高所得者同士、低所得者同士のカップルができやすい。家計所得の格差は今後さらに広がっていく

・男性が主なユーザーである嗜好品は、ここ数年一様に売上を減らしている。たばこの販売数量(ここ15年で40%以上減)、お酒の消費量(ここ15年で15%減)。家電の不況も、メカ好き男性の財布の紐が極端にきつくなったことも無縁ではない

・男性向けから女性向けへのシフトの例で、最も顕著なのが飲食店で盛んに見られる「女子会」

・男性が一家の大黒柱として家族を養う家庭のあり方が限界に来ている。将来予測を見ても、男性不況が解消される見込みはまったくない

・「管理的職業従事者」は、1997年に221万人いたものが、2010年には159万人と60万人も少なくなっている。この間の減少率は、「製造・制作・機械運転及び建設労働者」の22%を凌ぐスピードでその数を減らしている

・アメリカは自国通貨を安く誘導した結果、2000年代に入って、ずっと減り続けていた製造業の雇用者数が、2011年から増加に転じた

・自国通貨が安いほうが、国の成長率は高くなる。自国通貨と成長率の関係は、各国の当局は周知の事実なので、自国通貨を安くしようと働きかけるのが一般的

・男性不況に個人としてとるべき戦略は4つある。「1.付加価値の高い成長分野の職に就く」「2.海外で日本人であることがプラスにはたらく職に就く」「3.女性がメインだった職場に職を求める」「4.専業主夫を目指す」。男性は防衛策を講じるべき



男女平等が着実に進んでいることを明らかに示す書でした。この「男性不況」を回避していくには、男性が女性にすり寄っていくのが最適の戦略かもしれません。

稼ぎが少なければ、腰を低くしないと生きていけません。若い男性が「草食系」と揶揄されていますが、実は、それが、現代にふさわしい賢い生き方なのではないでしょうか。


[ 2014/02/10 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『40歳からのリアル』人生戦略会議

40歳からのリアル40歳からのリアル
(2013/05/24)
人生戦略会議

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以前、「35歳からのお金のリアル」という本を紹介しました。本書は、その続編となる書です。お金だけでなく、仕事、住まい、健康、家庭、老後のリアルが載っています。

時すでに遅しなのですが、私の40歳を反省して、なるほどと思った点がいっぱいありました。それらをまとめてみました。



・人生の目的は「年収1000万円の男」という自己満足ではなく、楽しく、不安なく、笑って過ごせる人生。金額を追うことと満足できる人生を手に入れることは別次元

・支出に関して40歳が特徴的なのは、人生の「3大支出」と言われる「住居費」「教育資金」「老後の生活資金」が重なり、家計の負担が大きくなること。収入が増えない状況で、これらの3つが重なってしまうと、一気に支出が増えて、家計が危機的状況になる

・「あれもしたい、これもやりたい」という願望を持つのは20代まで。「こういう方法はどうだろう」「あんな方法もあるらしい」と模索するのは30代。40歳からは、「ウチはこう暮らす」「そのためにこれを買い、これは買わない」と決断する基準を持たなければならない

・情報に「夢を与えてもらう」のは20代まで。情報に「踊らされる」のは30代。40歳からは、情報を「へえ」の一言で聞き流す勇気を持たなければならない

・医療保険には「万一に備えて入るもの」という常識があるが、現金があれば医療費は払える。しかも、アメリカのように公的な保険制度がない国と違い、日本には国民皆保険という制度がある。つまり、民間の医療保険は、けがや病気のリスクに二重に備えるもの

・アメリカで破産した人の約半数は、高い医療費が支払えなかったため。日本で10万円ですむ盲腸の入院が、アメリカでは200万円ほどかかる。アメリカで暮らすなら医療保険に入ったほうがいいが、日本で暮らすなら、その必要性は大きく下がる

・都市部で車なしの生活と、郊外で車を持つのとでは、かかるコストはほぼ同じ。どちらが満足度が高いかを夫婦で話し合えばよい

・「お金の話なんて・・・」と言ってかっこいいのは、お金持ちだけ。貧乏な人が、「お金より大事なものがある」と強がっても、負け惜しみにしか聞こえない

・土地は地価によって価値が変わる。そのため、ローンを組んで家を買うということは、借りたお金の一部で不動産投資をすることと同じ

賃貸の場合は、今のところ、家賃、管理費、敷金、礼金などには消費税はかからない。一方の持ち家は、建物の建築代金、不動産業者、登記のために司法書士に支払う手数料などに消費税がかかる

・日本は「新築信仰」が強い。日本の住宅は90%が新築、アメリカでは逆に80%が中古。イギリスやフランスでも中古が新築を上回る。世界的に見れば、日本の住宅市場は異質

・新築物件は、買った瞬間に2割ほど価格が下がる。つまり、この2割が新築の価値(「気分」と「性能」の値段)。「気分」とは、買ったという満足感と新鮮だったという思い出。「性能」とは、10年経てば「ひと昔前の設備」、30年経てば「買い替えなければならない設備」

・片道2時間の通勤がもったいないと感じるのは、時間の使い方に問題があるから。仕事をすることもできるし、勉強もできる。もったいないのは、通勤時間ではなく、通勤時間を活用できていないこと

・子供と一緒に住む期間は、その家に住む期間の半分にも満たない。ローンの返済期間よりも短くなる。最終的には要らなくなる子供部屋は、最初からなくてもよいと考えられる

・会社やスポーツチームのように規律、価値観、指揮系統を明確にすることが、いい家庭を築く上でのポイント

・愛やお金や健康など不安定に変化するものに頼らずとも、先行き不透明な世の中を生き抜ける家庭をつくること。未来を生き抜けるかどうかは、家庭という最小単位の組織を強固で成長性のある集団に構築できるかどうかにかかっている

・組織では「やさしい社長」がいい社長ではない。「利益を出して、社員を幸せにする社長」がいい社長。家庭も、そのような視点で考えれば、正しい独裁によって家庭が強くなる

・夫婦間で、「価値観」と「戦略」をあらかじめ共有しておくこと。価値観とは、何に価値を見出すかであり、決断の生命線となる基準。戦略とは、何歳まで働き、老後はどこに住み、そのためにお金を準備しておくかという「進んでいく方向



本書を簡潔にまとめれば、「世間の目を気にせず、自分の(夫婦の)思い描く人生を歩んでいくことができれば、幸せな人生が送れる」ということです。

家庭を上手に経営するという視点が必要です。その家族経営を始める(創業する)のは、40歳までが望ましいのかもしれません。


[ 2014/02/03 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(2)

『東京は郊外から消えていく!首都圏高齢化・未婚化・空き家地図』三浦展

東京は郊外から消えていく!  首都圏高齢化・未婚化・空き家地図 (光文社新書)東京は郊外から消えていく! 首都圏高齢化・未婚化・空き家地図 (光文社新書)
(2012/08/17)
三浦 展

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東京だけでなく、全国の大都市でも、郊外の住宅地(特に、通勤に不便で、女性の働き場が少ないところ)の地価が下がり続けています。この状態が続くのか、非常に気になるところです。

本書は、人口減少の時代、しかも若者の大都市流入も減りつつある時代に、大都市の地価が今後どうなるのかを調査分析している書です。住んでいい地域、買っていい地域とは、どこなのかも記されています。その一部をまとめてみました。



郊外の地価は、1992年から2011年にかけて、5割から6割減。それに比べて、都心近くの住宅地は3割減くらい。郊外住宅地の地価下落率が高いのは明らか

・住宅の価格が下がるのは、日本全体の景気が悪いからだけではない。昔は、郊外の駅から遠い不便な物件でも売れたのは、男性だけが働き、長い通勤時間に耐え、通勤定期代が会社持ちだったから

・都心から遠く、駅からも遠くに立地している住宅は、男女役割分担時代の遺物。現代においては利用価値がない。だから、価格は下がるしかない

団塊ジュニアが住む地域は、「未婚で所得が低い者」は郊外の親元の家。「未婚で所得が高い者・既婚で子供がいない夫婦」は都心部のブランド地域。「既婚で子供のいる裕福な世帯」は都心部や郊外のブランド地域。「既婚で子供のいる一般世帯」は大衆的な郊外住宅地

・マーケティング系の人は、住んでみたら意外に楽しい、便利だ、生活しやすいと評価される街が今後発展すると考えている。コンサルタント系の人は、従来型の価値観(ファッショナブル、流行や時代の先端、ステイタスなど)の街が今後も発展すると考えている

若い女性の関心が、都心で高級品を買うことから離れていっている。ブランド志向、おしゃれ志向が弱まり、よりカジュアル志向、シンプル志向になっていることが、買い物をする街の選択にも現れている

・いつの時代も新しい流行をつくるのは若い女性。今、若い女性は脱ブランド志向になり、逆におじさん的な趣味に向かっている

・ずっと長期不況を経験してきた団塊ジュニアやそれ以降の若い世代にとっては、イメージはよいが値段が高いブランド地域は、そう簡単に手は出せないし、コストパフォーマンスが悪いと感じる

二世帯同居は、親にとっても、行政にとっても都合がよい。そして、特に子育て期の女性にとって、親が近くに住んでいると都合がよい

・女性が働ける郊外地域でなければ、女性は都心に出ていく。あるいは、働ける別の郊外地域に引っ越していく。若い世代がいなくなれば、高齢者だけの地域になり、税収が減り、福祉予算ばかり増える。これからの時代は、自治体が若い世代を奪い合う時代

・若い世代が、街にブランド性を求めなくなっている。それよりも、楽しさ、便利さ、刺激やクリエイティブな風土を求め始めている。若い世代が、下町に関心を向ける背景には、単なるレトロ志向ではなく、職住一致の地域への憧れがある

・第一の消費社会は大正から戦前。都心に百貨店ができ、鉄道沿線に住宅が開発された時代。第二の消費社会は、戦後から1974年まで、大量生産による画一的消費の時代。第三の消費社会は、個性志向が強まった時代。第四の消費社会は、モノが完全に飽和した時代

・第一の消費社会から第三の消費社会までは、地方から都市へ、都市から郊外へという動きが単線的直線的に起こった。大量の人々が同じ価値観を持ち、田舎より都会のほうがいい暮らしができると信じ、都会は狭苦しいから郊外に家を買うのがいいと考えた

・東京の都心がつまらなくなっているのは、一概に不況のせいばかりではない。それは、空間が均質になり、個性が失われているから

・新しいものでも、無駄なもの、意味のないものは、つくってほしくない人が増えている。そんな無駄をするなら、古いものをうまく利用したほうが面白いと考える人が増えている

・単純な近代化を終えた社会においては、人々は単純なモダニズムを信じない。まっすぐな道路を嫌い、曲がりくねった路地を好み、自動車を嫌い、歩くことを好み、ピカピカの巨大なビルを嫌い、古くて味のあるビルを好むようになった。これは退歩ではなく成熟

・放っておくと住宅地が劣化してしまうのは、「多様な世代が住める居住の場がない」「まちに必要な『働・学・憩・農』の機能をつくらなかった」から



業者が考える「住んでほしい街」よりも、消費者が考える「住んでよかった街」のほうに軍配が上がるのかもしれません。

人気の街は、女性の現実的な願いが70%、若者の未来嗅覚が30%くらいの割合によって決まっていくのではないでしょうか。


[ 2014/01/20 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『10年後に食える仕事、食えない仕事』渡邉正裕

10年後に食える仕事、食えない仕事10年後に食える仕事、食えない仕事
(2012/02/03)
渡邉 正裕

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本書は、若者を不安に陥れるものでも、必要以上に鼓舞するものでもありません。ただ冷静に、食える仕事(安定的に給料をそこそこもらえる仕事)とは何かを探す内容の書です。

現実路線の生き方をする上で、非常に役に立つ書です。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



・これからの経済はグローバル化だ、皆が英語を操って世界を相手に丁々発止のビジネスをしなければならない、といった言説がはびこり、そんな文句に脅されて、講演に出かけ、ビジネス書を読み漁り、学校に通い、資格取得マニアになって、疲弊している人が多い

・グローバル化がいくら進もうが、日本人の仕事として日本に残る仕事は、必ず残る。逆にグローバル化で、減る仕事、賃金相場が限界まで下がり続ける仕事、丸ごとなくなる仕事もたくさん出てくる。だから、どの領域で稼ぐのかを考え、仕事を選ばねばならない

・世界を相手に厳しい競争社会で勝ち続け、№1を目指したいという人には、より頑張ればいい。だが、日本人の皆が世界70億人を相手に激烈な競争を繰り広げる必要など全くないし、向いていない人が競争率70倍の激戦区に参戦するのは不幸でしかない

・実は、日本人として、この国で生まれ育ったこと自体がスキルであり、武器になる分野もたくさんある。それを自身の強みと理解し、強みを活かせる分野で、能力アップに励むことが最も賢い道。この認識で仕事選びを行っていれば、雇用のセーフティネットになる

・究極的に「一物一価」へと収斂していくグローバル化によって、ブラックホールのように「重力の世界」へと引き込まれる仕事は着々と増えており、その流れやメカニズムを理解した上で、自身の仕事を選んでほしい

・グローバル化時代の職業には、「1.重力の世界」(グローバルの最低給与水準に収斂)、「2.無国籍ジャングル」(70億人との戦い・超成果主義)、「3.ジャパンプレミアム」(日本人ならではの質の高いサービス)、「4.グローカル」(日本市場向け高度専門職)がある

・国境を越えたアウトソーシングは、米国で早くから行われ、英語が公用語のインドが受け手になっていた。中国の大連市は、日本のアウトソーシング受託の一大拠点に育ち、日本語を操る中国人が激増している

・グローバルの波にのまれて去っていく者もいれば、グローバル化と無縁の者もたくさんいる。公務員(教師、消防、警察、各役所の職員)や、民間でも鉄道系の正社員も「グローバル耐性」が強く、フラット化した世界でも食べていける仕事

日本人メリットを活かせる職に就くことで、ハングリー精神旺盛な新興国の人たちとの不毛な消耗戦、血みどろの戦いを避けられる

・日本人メリットを活かせる仕事とは、一言で言えば「外国人には容易に代替がきかないモノやサービスを提供する仕事」

・世界から並外れている日本人の特性は、「清潔さ」(exツバを吐かない)、「きめ細やかさ」(ex裏側までキッチリ施工)、「勤勉さ」「顧客へのサービス精神」「道徳心」(ex会社のものを盗まない)、「組織への高い忠誠心」(exすぐに会社を辞めない)など

・IT化で瞬時に海外移転する職業、海外移転しないが、国内で徐々に外国人に置き替わっていく職業は、日本人メリットがなく、特段の高いスキルも必要とされない。一刻も早く抜け出すことを考えたほうがいい

・「情報」や「金融」が、一瞬で国境を越えるのとは対照的に、「土地」「建物」は国境を越えにくい。建築や不動産業界の職種は、グローカル職の集合体

・商品単価が安く、失敗時のリスクが低く、単発で長期的関係が不要な商品を売る営業、マニュアル化ができて、足で稼ぎ、数を撃って当てるスタイルの営業も、誰が売っても品質に差が出ない営業なので、今後沈んでいく可能性が高い

・「人事」が行う採用、育成、昇給昇格管理、人事制度設計、労務対応といった業務は、国ごとに固有の制度がモノを言う土着の世界で、「グローカル」職業の典型。一方、「経理・財務」は一部が中国へ移され始め、遅れている会社でも、非正規社員化は進んでいる

・日本国内の雇用者数を分類すると、「重力の世界」(72%)、「無国籍ジャングル」(3%)、「ジャパンプレミアム」(16%)、「グローカル」(6%)、「分類不能の職業」(3%)になる。7割の人は危機感を持たないといけない



年輩の人たちは、若者に覇気がないと言います。しかし、そういう人たちは、真のグローバル競争を経験しなかった人たちです。時代と共に、考え方も変わっていかなければなりません。

今の日本は、成長の時代ではなく、成熟の時代です。それにふさわしい生き方や仕事を模索するうえで、本書は役に立つのではないでしょうか。


[ 2013/12/06 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)

『ヤバいです!その金遣い』石原伸浩

ヤバイです!その金遣いヤバイです!その金遣い
(2011/10/21)
石原 伸浩

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著者は、1万件にのぼる「お金のトラブル」の相談を受けてきた弁護士です。

お金で失敗した人の、その平均的借金額やそれに陥った理由などが、具体的に示されている本です。お金の使い方について、反面教師になる点が多々ありました。それらの一部を要約して、紹介させていただきます。



ギャンブルで相談に来る人の抱えている借金額はだいたい500万円前後。複数の消費者金融会社から借りている。ギャンブルにハマる人は執着心が強い性格の人。経済的にはまずまずの中堅会社に勤めている中流層。既婚者なら家庭がうまくいっていない人が多い

ホストクラブにハマって借金が膨らみ、債務整理の相談に来る人も多い。日常生活で味わえない優越感が楽しくてあっという間に借金を作る。若い20代の女性の借金額はだいたい200~300万円。それ以上貸すと回収できないリスクが高いと貸す方も警戒する

キャバクラにハマって相談に来る人は両極端。ガテン系で年収200~300万円の仕事をしていて、120~130万円の借金で来る人と、年収1000万円以上の30~40代の人で、最初は会社の接待だったのが、経費が落ちず、積もり積もって1000万円くらいの債務になる人

エステの多重債務で相談に来る女性(典型的なのは20代200~300万円の借金)が後を絶たない。ホストより多いという点で「浪費の女王」。施術費だけでなく、美顔器などを買わされて、借金が膨らむ。相談者は、エステに通う必要のない「太っていない」子が多い

・借金を抱えているのに、車を持っていて、そのローンも抱えている人が多い。普通の人なら真っ先にお金のかかる車を処分して返済に回すが、彼らは違う。経済的コンプレックスを持つ人は、いまだに高級車に乗ることが成功の証のように思い込んでいる

絵画や骨董で借金を作るのは中年女性と若い男性。中年女性は、自分には芸術を理解するセンスがあるという自意識で、150万円の絵を何枚も買ってしまう。若い男性は、30~50万円の絵を一回買った後、何度も勧誘されて、200万円ほどの借金を作ってしまう

借金を作る人の特徴は、「1.収入の範囲内で収められない」「2.周りによく思われたいという見栄が強い」「3.ストレス解消のために、本当はやりたくないけどやってしまう」

・債務整理の相談に来る人の中に、住宅ローンを抱えている人(身だしなみもきっちりしていて、ある程度の会社に勤め、収入もある人)が多い。そういう人たちの多くは頭金なしのフルローンを組んでしまっている。頭金は、最低3分の1は払うべき

・目の充血した人が相談に来ると、投資で借金を作ったとすぐわかる。投資で来る人は借金2000万円とかザラ。自信過剰でプライドが高く、ギャンブルする奴らは下賤で、頭のいい人は投資をやり、仕組みがわかっているから損することはないと思っている人が多い

宗教で多額の借金を抱えた人の通帳は、振込先の宛名に個人名がたくさん記載されている。宗教の会合や寄り合いでお金がどんどん出ていく。月収20~30万円ほどの人が、月に10万円以上平気で使っている。もう少し収入のある人は、教団に多額の寄付をしている

マルチ商法で相談に来るのは若い層、20~30代で負債額は300万円程度が多い。マルチにハマった動機は人を騙して楽して儲けたいというよりも、友達づくりから始まった人が多い。「絆」や「つながり」という言葉に弱い若者は、簡単にハマっていく

・債務整理の相談に来る人はほぼ皆、職を転々としている。自己破産申請をする際に、ここ10年の職歴を書く必要がある。その欄は6行しかないが、収まりきらずに別紙が必要になる人も少なくない。業界ではアパレルとITが多く、職種では圧倒的に営業職が多い

安易な起業の場合、負債額700~800万円という場合が多い。サラリーマンよりもっと稼げそうだから起業する人はいいが、組織の中で浮いてしまったから起業する人はうまくいかない。起業して5年以内に倒産する会社は80%、10年以内が95%。生き残りは厳しい

離婚は、前段階として別居を伴う。その間、家賃や生活費など二重の費用がかかる。愛人がいたら出費が一層かさむ。協議離婚の費用もバカにならない。離婚調停と裁判をやれば、弁護士費用が100万円ほど。さらに、男の場合、そこから慰謝料や養育費もかかる

子育てには金がかかる。よく相談に来るのが子だくさんの家庭の親。主人が相談に来る場合の借金額は400万円前後。離婚して女手一つで沢山の子を育てているお母さんの場合は200万円台が多い。子供手当があるとはいえ、子供が多いとやはり経済的にマイナス

・優柔不断、八方美人な人は名義貸し保証人になってしまいがち。断るところは断らなければだめ。人から頼まれたらうまく断れない人は、最初に「ごめん、無理」と言ってから理由を言うのがコツ。理由を先に言ったら議論になり、優柔不断の人は押されてしまう



お金を貯めるには、いっぱい稼ぐか、出費を抑えるかしかありません。いっぱい稼ぐには、才能や運もあり、万人に共通する成功ルールはないですが、出費を抑える、節約と浪費防止の方法はルール化できます。

本書には、浪費を防ぐ方法がいっぱい記載されています。借金を背負わないための教訓にもなる書です。


[ 2013/11/26 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(2)

『超・階級スーパークラス』デヴィッド・ロスコフ

超・階級 スーパークラス超・階級 スーパークラス
(2009/06/23)
デヴィッド・ロスコフ

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この世には、100万人に1人(世界中で約6000人)のスーパーエリートが存在しているそうです。このスーパークラスのエリートを調査分析したのが本書です。

その生態、実態を知れば、権力お金名誉を獲得し、維持するというのは、どういうことがわかります。その恐ろしくて、おぞましい数々の事実はとても参考になります。その一部を要約して、紹介させていただきます。



・影響力は人格ではなく、人格の欠陥から生じることもある。たとえば冷酷さ、一つの考えへの偏執狂的なまでの固執強欲といったもの

・富の大部分を支配し、その富を株式という形で保有する人々は、強大な影響力を持つ大企業に、強大な影響力を行使できる。とくに、巨大企業の場合、世界中にいる何百万人もの従業員とその家族、顧客、納入業者に影響を及ぼす

・時間は金や権力では手に入らない。すべてを手に入れた人々が口を揃えて言うのは、時間の束縛に対する不満

・ざっと6000人いるスーパークラスのメンバーの間には、一人一人を結ぶ無数の糸が張りめぐらされている。そのネットワークは、ビジネス上の取引。投資。組織や機関の理事会。出身校。超高級住宅街。空港。会合。レストラン。ホテル

・高額所得者層の増大は、資本所得(株式や土地の売買益など)によるものではなく、上位層の給与所得が大幅に増加したことによる。これはとくに企業トップの報酬に顕著に見られる現象で、1970年代に始まり、1990年代に加速した

・所得が下位60%に属する親のもとに生まれた子供が将来、所得上位5%に入る可能性は2%未満。もはや能力主義社会の体裁を保つのは困難

権力を維持する手段は、軍隊、称号や肩書き、あるいは地位を守り、他者がその地位を獲得できないようにする法律

・NGO、文化団体、宗教団体、政治団体など、特定の権益を守ろうとする多くの組織は、金の力(ロビー活動広告活動)で、世論を形成し、社会を動かそうとしていく

・大富豪たちが政治に引き寄せられるのは、経済上の成功を通じて獲得している以上の大きな力を政治がもたらしてくれるから。政治的要職を獲得するか、政治的決定を左右する能力や政治的な支援基盤があれば、個人は直接権力を握ることができる

・かつての悪徳資本家たちは、州をまたいだ通商に目をつけ、規制当局が手を打つ前に、巨利を貪った。同様に、グローバル化推進派のネットワークは、旧い世界を乗り越えようとして、悪徳資本家のように、驚くほど巨額の富を手にして、民衆の怒りをかっている

・慈善事業への寄付が影響力の行使の一形態であるのは、寄付によって自己の社会的地位を明示することになるから

・民間企業の影響力と政府の影響力の境目が判然としないのは、よく見られる現象。この種のあいまいさは、国防関連、メディア、そして、とくにエネルギー分野に多い

・エネルギー産業のトップに立つ人たちは、直接的な形で数十億人の生活に影響を与えている。彼らの決定が、生活必需品価格を決める重要な要素に作用するから

・民主化を推進するインターネットの人気サイトは、どれもこれも文句なしのスーパークラス(超権力者)が絡んでいる

エンターテインメント界の有名人ネットワークには重層的な構造があり、単なるスター以上のものが備わっている。彼らは政治やその他、現実の世界を動かす力を持っている

・情報化時代のエリートは前時代の起業家とよく似た手段や戦略を用いる。一方、伝統を重んじる宗教界のエリートは、政界や企業に多く見られるエリートに似ている。自分にふさわしい師を見つけ、権力基盤を構築し、野心を表に出さず、次の目標に焦点を定める

スーパークラスになるためには、「男に生まれること」「名門大学に通うこと」「ビジネス界または金融界に入ること」「組織の力を基盤とすること」「金持ちになること」

・国家的エリートはいまも存続している。しかし、たいていの場合、グローバル志向の強いライバルたちの規模、資源、ネットワーク、力に圧倒されている

・歴史は、富裕な権力者と、富裕ではないが権力を脅かす者との駆け引きの物語である



人間は影響力を及ぼしたいと考える動物です。そのため、権力と権威を獲得するために、腕力と知力をかけて、壮絶に戦おうとします。

その頂点に上り詰めた人が、100万人に1人、つまり、日本で約120人ということになります。その人たちの生態を知りたい方は、本書が参考になるのではないでしょうか。


[ 2013/11/05 07:00 ] お金の本 | TB(0) | CM(0)