売春、麻薬や銃の売買、殺人などの犯罪の温床であるスラム街は危険がいっぱいです。著者は、世界各国のスラム街14か所に足を運び取材した、根性のあるジャーナリストです。
世界のスラム街を本当に取材した人物は、著者が日本でただ一人だと思います。その貴重な記録から、貧困とは何かを考えさせられた点をいくつか選び、まとめてみました。
・貧しい人々は、次のような追い出されない場所にバラックを建てようとする。「
危険な場所」(川べり、土手、鉄道沿い)、「
不潔な場所」(ゴミ集積所、下水の溢れる場所)、「
目立たない場所」(人気のない街角、隔離された居住区)
・スラムを分類すると、「同じ身分や職業の者が集まっているスラム」と「宗教や民族や出身地別に成り立つスラム」がある
・スラムが大きくなると、隣人相手に商売する人が出てくる。真っ先に作られるのが、食べ物を売る「八百屋」「肉屋」と「雑貨屋」。その次に現れるのが「酒屋」「賭博場」。店が一通りできると、ちょっと成功した人が、新しく住みついた貧困者を遣った会社を起こす
・スラムに会社ができると、やがて
売春窟が作られるのが常。きれいとは言い難い女性や小太りの中年女性たちが働き始める。こうしてスラムがさらに大きくなると、完全な「街」となり、人口増加に比例して、店や会社の数が増え、競争原理で、サービスが向上する
・海外では、階級によって食生活が全く違う。途上国はそれが顕著。セレブ、ビジネスマン、庶民、スラムの住人ごとの食べ物や調理法がある。世界の
スラム食に共通していることは、「
火や油を使った料理」。ばい菌を殺し、保存期間を延ばせるから
・スラムの「
貧困フード」には、魚の頭、鼠や昆虫、骨を油で揚げたもの等があるが、その中で、世界中の人々に受け入れられてグローバルフードになったのが、フライドチキン
・夫婦の秘事は、子供に囲まれながら、声を殺して、前戯などなく、即挿入で敢行する。その理由は、「
体を洗っていないので汚いから」「早く射精して
家族を起こさないため」
・スラム街の女性たちは、恋人をつくったり、結婚したりする度に子供をはらむため、
腹違いの義理兄弟がわんさかできる。そのため、血のつながりは重視せず、どこかで血が繋がっていればみんな兄弟といった感覚を持っている
・スラムが巨大化して街になると、生まれる代表的な「表の仕事」が次の三つ。「人力車、自転車タクシーの
運転手」「
廃品回収業」「日雇いの
肉体労働者、家政婦」
・スラムの片隅で行われる「
闇の仕事」(犯罪行為)の代表が「
麻薬売買」「
武器売買」「臓器売買」「
人身売買」。一部の住人が、様々な成り行きから、悪事に手を染めてしまう
・路上生活の天敵は、「季節」と「警察」。寒い地域には「
マンホールハウス」(冬は暖かく、雨や雪をしのげる)がある。蚊の多い地域の人は、ミイラのようにボロ布を巻いて寝る
・路上生活者は、家族や仲間が亡くなったら、遺体を道路に置いて、線香を立て、通行人から
埋葬費用を募る。そして、木の薪は高いので、
古タイヤを使って火葬する
・路上には「物売り」と「物乞い」という二つの職業がある。
物売りには、新聞売り、煙草売り、お菓子売り、宝くじ売り、ティッシュ売り、花売りなどがある。
物乞いは、芸人型物乞い、ストリートチルドレン、アピール型物乞いに分けられる
・インドの「
障害者や病人の物乞いランク」は、上から「ハンセン病」「象皮病」「四肢切断」「全盲、知的障害」「片手、片足、片目の障害」「火傷、皮膚病などの軽い障害」。「健常者の物乞いランク」は、上から「赤子」「老人」「女性+赤子」「女性」「青年」「成人男性」
・
ストリートチルドレンに男児が多いのは、「親戚は大人しい女児しか預からない」「女児は少女売春婦や家政婦に雇われる」「女児が犯罪から身を守るために男装している」から
・ストリートチルドレンが、幼いうちに多くが死亡する理由は、「薬物中毒死」「酩酊時の事故死」「感染症死」「栄養失調」。まっとうな道に進もうとしても、「シンナーなどの薬物依存症」「愛情欠如によるコミュニケーション障害」「トラウマによる社会不適合」が阻む
・
売春婦推計人口は、中国が2000万人(女性の30人に1人)、インドが1000万人(女性の50人に1人)。GDPにおける
売春の占める割合は、韓国が5%、中国が6%
・一般の
売春宿では、男性客が1000円支払ったら、その3割~5割(300~500円)が売春宿側の儲け。その代わり、売春宿は売春婦に3食とベッドを提供し、トラブル処理や警察への賄賂なども負担する
目を背けたくなる事実がいっぱい記載されている書でした。しかし、これが貧困の現実です。きれい事だけでは世の中を渡っていけません。
数年前、貿易会社を経営している人から「貧しい国を訪問するときだけ、まだまだ甘い息子を同伴させている」という話を聞きました。この話のように、厳しい現実を知らない人には、貧しい国はいい薬になるのかもしれません。