吉田松陰は、松下村塾で、維新の人材を多く育てました。では、具体的に何を教えたのか?何を信念としたのか?どのような教え方をしたのか?結構、知らないことばかりです。
この本を読むと、何を教えたのか、何を信念としたのかを知ることができます。そして、教育には、何が大事かということも知ることができます。
吉田松陰の思想、哲学の入門書として、この本は役に立ちます。特に、教育の面で、参考になった箇所が20ほどありました。「本の一部」ですが、著者の現代語訳で紹介したいと思います。
・「志を立てざるべからず」
人としての生き方が正しく優れているか、勉強がうまくいくかは、心に目指すところがきちんと定まっているか、つまり志があるか否かによる
・「志を以て」
重要な仕事をする者は、才能や知識を頼りとするようではだめである。必ず、何のためにその仕事をしているのかを考えて、気持ちを奮い立たせ、励むことで達成できる
・「人を信ずるに失するとも」
知を好む人は疑いすぎて失敗する。
仁を好む人は信じすぎて失敗する。しかし、人を信じる者は人を疑う者に優っている
・「師恩友益多きに居り」
人としての徳を身につけ、才能を開かせるには、恩師のご恩や良友からの益が多い。立派な人は、
心ない人とは交際しない
・「学問の大禁忌」
学問を進める上で絶対にしてはならないことは、やったりやらなかったりということである
・「備はらんことを一人に求むるなかれ」
あらゆる能力が備わっていることを、一人に求めてはいけない。ちょっとした失敗を理由に人を見捨てていては、素晴らしい才能をもった人は決して得ることはできない
・「大将は心定まらずして叶はず」
大将たる者は、決断しなければならない。もし
大将の心がふらふらしている時には、その下の将軍らに、いくら知恵や勇気があっても、それを実際に施すことはできない
・「心に類す」
立派な人は、人情に厚いために、愛のために、無欲のために
あやまちを犯す。つまらない人は、人情に薄いために、残忍なために、貪欲なためにあやまちを犯す。過失を見れば、その人が分かる
・「己を正すの学」
自分を正しくして、その後で人を教えるのであれば、従わない人はいない。
自分を正しくする学問に励まなければいけない
・「剛毅木訥」
学問と武芸を盛んにするため、最も大切なことは、意志がしっかりとしていて、
飾り気がないという精神的な雰囲気を作り上げること
・「受けんのみ」
去る者は追わない。しかし、その人の過去の美しく立派な生き方を忘れてはいけない。来る者は拒まない。しかし、その人の過去の悪しき生き方を覚えていてはいけない。人として正しい道に向かおうという心をもって訪ねてきたら、受け入れるのみ
・「苟免を止む」
武士教育において大切なことは、武術についての技芸を盛んにし、贅沢を禁止し、目先の安楽をむさぼらないよう戒め、一時逃れをやめさせることである
・「點醒」
人に暗示を与えて、悟らせる
・「天下才なきに非ず」
世間に才能のある人がいないのではない。それを
用いる人がいないだけである
・「誠の字の外」
一に言う、実際に役立つことを行うこと、二に言う、それだけを専一に行うこと。三に言う、ずっと行うこと
・「過を改むるを」
立派な心ある人は過ちがないということを重んじるのではない。
過ちを改めることを重んじるのである
・「心なり」
俗人が見るのは形である。心ある立派な人が見るのは心である
・「深き者は」
ある事を論ずる際、心ない人は勝ち負け、つまり結果を重視して見る。心ある人は
真心か
邪な心かを見る
・「己を以て人を責むることなく」
自分の尺度のみで他人を批判しない。一つの失敗だけで、その人のすべてをだめとして見捨てない。その人の長所を取り上げ、短所は見ないようにする。このような気持ちで生きれば、どこへ行こうが、
人が集まってくる・「己を修め実を尽す」
世間が褒め貶すことは、大抵実態とは違うもの。それなのに、
貶されることを恐れ、
褒められたいとの気持ちがあれば、表面的なことばかりに心を遣うようになり、真心を尽くして生きようとの気持ちは薄くなっていく
・「己が任と為す」
天下後世を維持発展させることを自分の任務に自覚すること。人としての正しいあり方を、我が身から家に広げ、国家から天下へと広げる。また、子、孫へ伝え、更には雲仍、八代目の孫にまで伝える。広がらない場所はなく、伝わらない世代はない
・「偏聴は」
偏った意見を聞けば、
邪な人やそうい状態が生まれる
・「身を戦場に置くの思いをなし」
人の心というものは、上の命令に従わず、上の
好みに従うもの。今その地位にある人は、この点を本当に理解し、安易、軽佻で怠惰に走ろうとする欲望をたち、身を戦場に置く気持ちで自ら実践し、人を引率するならば、命令など下さなくても、人は従う
・「学の道たる」
思うに、学問というのは、自分の才能を見せびらかして、
人を従わせるためではない。人を教育して、一緒に、善き人になろうとすることである
・「近き所を」
人にはそれぞれ生まれつきの性質がある。だから、昔の心ある人に学び、自分に近いよい性質を自分のものとするべきである
この本を読むと、吉田松陰がなぜ、現代に至るまで慕われ続けている理由がよくわかります。
教育者としての信念に関する記述は、現代の教育学で論じられていること以上のことが書かれています。
学校、会社、地域にかかわらず、
人を教える立場にいる方は、目を通しておく1冊だと思います。