東北大地震に心が痛みます。財産と家族の命を一瞬にして奪われてしまった方には、何と言葉をかけていいかわかりません。また、宮古、釜石、南相馬には、何回も足を運んだことがあっただけに、テレビで見る、町の惨状に目を覆いたくなる気分です。
しかも、私自身、阪神大震災で、震度7の揺れ、その後、火事が近くで発生し、2軒先で止まり、自宅の周り、半径200メートルで、30人ほど命が奪われるのを目にするという経験をしました。
津波に遭われた方の足元にも及びませんが、虚しさ、はかなさ、あわれさといった
無常観を味わったことがあります。
今、こういう時に、
坂井三郎氏という、生きるか死ぬかを何度も経験された方の書を採り上げるのは、どうかと考えましたが、あえて、この本を紹介することにしました。
坂井三郎氏のことを教えてくださったのは、以前勤めていた会社の上司のFさん(脳梗塞で倒れ、リハビリ後復帰)です。
坂井三郎氏は、零戦で200回以上の空中戦を闘い、敵機を64機、撃墜した
海軍航空隊のエリートです。太平洋戦争で、ガダルカナル、硫黄島の決戦を体験した中で、九死に一生を得ましたが、敵機に狙撃され右眼を失明し、左半身も不自由になられました。
昭和56年に出版された本ですが、
死生観を有している方なら、今読んでも、感動するところが多いのではないでしょうか。「本の一部」ですが、紹介したいと思います。
・
人生是勝負。私たち一人一人は勝負師であらねばならない。それも半可通の勝負師ではなく、正々堂々たる勝負師を目指さねばならない
・安易に勝ちをとろうとすると、やることなすこと姑息になり、眼前の勝ちにばかりこだわり、全体を見失う結果となる。これでは、勝ち抜き、勝ち進んで生き残ることができない
・強固なる
勝負師の根性を土台の条件にして、自分の行う戦術、進める戦闘技術が、つねに理にかなっていなければ、勝負に勝つことはできない
・相手が致命的なミスを犯すように、また犯させるように持っていくのが、「
理にかなう」戦いの進め方
・「理にかなう」とは、すべて読みにはじまり、その読みが正しく実践できることにつきる。その時にこそ、勝機を自分で創り出せる
・極意は「先手必勝」。真剣勝負の場で一度、後手に回ってしまったら、元始の状態に戻すためだけで大変な危険を払い、無駄な時間を浪費し、エネルギーを消費しなければならない。
先手を取ることで、相手の心の動きを読み、致命的なミスを誘発させることができる
・勝負というのは、強いから勝つのではない。その勝負に
勝ったから強い。勝負に勝っても、次の勝負に勝てる保証はただの一片もない。勝負は負けたら終わり。次の戦いの準備に最善をつくすことが「必勝の信念」となる
・勝負師は一つの事象にのみ、心を奪われてはならない。中でも指揮者は、二つも、三つも、四つもの事に眼を配り、心を配る「
分散集中力」をつけなければならない
・高空に上がれば上がるほど、スピードが速くなればなるほど、人間の能力が減殺されていく。それを「パイロットの六割頭」と言った。自分を正常と思い込み、自分の能力の低下を自覚しないところにこわさがあり、命とりとなる危険が潜んでいる
・人間は死ぬために生れてきた。形あるものは必ずこわれ、生あるものは必ず死ぬ。これは
宇宙の鉄則・自分の一生の大目標を果たすために、私たちはそれぞれの職業を持っている。ベストをつくさねばならない所以であり、人間の生存競争のための勝負がここに展開される
・天運と人運を混同しがちだが、勝負師の考える運は、人運でなければならない。
人運は性格+環境+努力の三要素から成り立っているから、自分で切り開くべきもの。ここから、人事(人運)を尽くして天命(天運)を待つ心境が生まれる
・
逆境に鍛えられた人間は、難局に際しても、立ち向かう気力と打ち破る底力を持っている。逆境は本物の人間をつくる。思いやり、人の情けといった深みのある人間性はこのあたりから生まれる
・自分が日ごろ信じ切っている師匠の一言は、たとえ暗示であっても、死を生に変える力がある
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負けなければ、次の勝負の権利が獲得できる。真剣勝負では、常にこのことを念頭に入れてかからねばならない
・最短時間内に冷静さを取り戻すことが大切であり、どんな事にも動揺しないだけの
図太い神経を養っておく。つまり、最悪を覚悟しながら、最善をつくす
・勝負師というものは、どんな些細なことであっても、自分が感じたことを記憶装置に叩きこんでおけば、いつかはきっと役に立つ。たとえ、それが生涯に役に立たなくても、その
心構えを持つと持たないとでは、大変違った人生になる
・パニック状態に遭遇したとき、あわてふためいて処置することはすべて誤り。まず、取り戻すべきは
平常心。空中戦で弾丸をくらってキリキリ舞いになった時、すかさず時計の針を見る。今、何時何分を針が示しているかを確認できたら、平常心を取り戻せる
・野生動物の中でも、集団をなして行動するものには、リーダーが必ずいる。リーダーの使命はただ一つ、自分の率いる
集団の安全保障をすることである。つまり、毎日の生活生存を全うし、安全に繁殖をはかり、外敵の攻撃に対して集団を守ること
・実戦において、実力即戦力のないリーダーなど、部下から見て信頼も希望もない。とくに小単位で直接指揮して戦うリーダーには不可欠の条件。その条件の中で、もっとも大切なのは、指揮官としての執念。
絶対にあきらめないで、永く持続させること
・人間は追い詰められて、いよいよ苦しくなってくると、そこで迷いが生じてくる。どうも自分のやっていることが間違っているように思えてくる。もっと他にいい方法がありやしないかと迷う。しかし、ここで他の方法に転じたら、その時が自分の最後の時になる
・自分の言う「戦い」とは、競い合い、憎み合いのことではない。「戦い」は
自分との戦い、つまり、怠けよう、驕ろう、安易に妥協しよう、諦めよう、悪い誘惑に負けようとする心との戦いである
この本には、強く生きる言葉が数多く出てきます。死線を彷徨ってきた人だからこそ、このような手記が書けたのではないでしょうか。
つらくても、やりきれなくても、虚しくても、明日の飯を何とかしないといけないのが人間です。結局、強く生きていかないといけないのかもしれません。