この本は、教育学者の森信三氏、幼児音楽教育の
鈴木鎮一氏、産科小児科院長の三宅廉氏、詩人の坂村真民氏、天龍寺管長の
関牧翁氏、日本ビクター社長の
松野幸吉氏、京都大学総長の平澤興氏へインタビューしたものです。この七人は、今では、すべて故人です。
七人の故人が甦って、私たちを目覚めさせてくれるのが、本書です。役に立つこと、ためになること、勉強になることだらけです。それらを一部要約して、紹介させていただきます。
・
不妄語(でたらめを言うな)、
不悪口(悪口を言うな)、
不両舌(仲違いすることを言うな)、
不綺語(お上手ごとを言うな)。古来、傑出した人は言葉の慎みを重視する(森信三)
・どこか「自己を賭ける」趣きが要る。食うことが保証されている組織の中では、賭けることは勝手にできない。だから、
部下に賭けさせることが、すぐれた社長の条件(森信三)
・われわれは
神様から封書を持ってこの世へ送られてきている。封書を開けて、その使命が何であるかを解らねばならない(森信三)
・二度とないこの世の「生」を恵まれた以上、自分が生涯たどった歩みのあらましを、血を伝えた子孫に書き残す義務がある(森信三)
・読書は、「自分」をつねに
内省できる人間にする。読書、内観、そして実践という三段階は、われわれ人間が進歩し、深められていくプロセス(森信三)
・どんな子でもみんな、母国語が話せる。この
母国語の教育法こそ、どんな教育法にも勝る。だから、学校の成績が悪いのは、教育の方法が間違っているから(鈴木鎮一)
・「うちの子はものになるでしょうか」と聞く
打算的な親ではだめ。親の心配は、少しでも立派に、
美しい心の子を育てることで十分。立派に育てば、立派な道が開ける(鈴木鎮一)
・「
十四歳は最も美しい時。世界中の人がみな十四歳なら、この世はよくなる」とシュバイツアー博士は言った。ルソーも「十五歳を境に第二の人生が始まる」と述べた(三宅廉)
・ナチスのヘスが、残虐な行為をしたのは、「私(ヘス)の前で、
両親が仲良くしているのを見たことがない」から(三宅廉)
・人間をつくるのは、絶対に母親。三歳までは父親ではない。
三歳を過ぎたら父親。社会性を与えて、この世の中で活躍する底力を養うのは父親。脳の前頭葉を発達させ、よき判断力、決断力を発揮させるのは、父親の役割(三宅廉)
・私の詩は
接点の詩。善悪の接点、昼夜の接点、陰陽の接点、光と闇の接点。川が流れて海に注ぐ、その接点。そこに一番、魚がいる。人間も清い世界だけに住んでいてはだめ。接点の世界には、いろいろな物が混沌として存在して、一番エネルギーがある(坂村真民)
・言葉が生きるには、いろいろの人生体験や
苦難の歴史というものが大切(坂村真民)
・禅宗では「
地切り場切り」といって、そのときになりきってしまう。飯を食う時に、糞をすることを考えていたら、あまりいいご飯をいただけない(関牧翁)
・作為を持って、自分の型にはめようとすると、人は拒絶反応を起こす(松野幸吉)
・教育とは
火をつけて燃やすこと。教えを受けるとは、燃やされ、火をつけられること(平澤興)
・誉めるには、こちらが、それだけの行をしていなければならない。
愛情だけじゃいけない。だから、誉めることは、そう簡単なことではない(平澤興)
・誠実というのは、
愛情と努力と言い換えてもいい。偉大な仕事を成し遂げるのに、最も必要なのは、才ではなく、偉大な愛情と努力(平澤興)
・疲れるのは、燃え方がちょっと足りないから。他人に
感動を与える人は疲れない(森信三)
・学長をやった関係で、国際的な偉い人に会ったが、本当に一流の人というのは、
田舎のおっさんみたいで、どこか足らぬところがある。それが魅力であり、風格(平澤興)
・地方に深く根ざしている「
地下水的真人」が日本を支えている(森信三)
人を育てることの極意が、本書に書かれています。教育者でなくても、人を育てる立場に就いている人に、是非読んでほしい書です。
今後の日本は、本書にあるような、名もなき、立派な人物が、全国から輩出されてくるかどうかにかかっているのではないでしょうか。